うつ病
うつ病とは
うつ病は、気分の落ち込みや意欲の減退などを基本症状とする精神疾患の総称です。
うつ病は、誰でもかかる可能性があることから「こころの風邪」と言われることがありますが、日常生活への影響や回復に要する時間から、風邪のように気軽に考えることはできません。
重度のうつ病では、自殺願望や希死念慮などから死に至る場合もあり、そのことから最近では「こころの肺炎」と例えられることもあります。
2015年の自殺による死亡者数は、全世界で約78万8千人と推計されており、その中でも15〜29歳の若年層では死亡原因の2番目を自殺が占め、その主要因がうつ病と言われています。
日本国内の年間自殺者数を見ると90年代での増加が目立ち、2003年には34,000人超を記録しています。
近年は減少傾向にあるものの、今なお2万人を上回っています。(警察庁の自殺統計に基づく厚生労働省の発表によると、2021年の自殺者数は2万830人。)
世界保健機構(WHO)の2017年の報告によると、うつ病の人は全世界で推計3億2,200万人であり、実に全世界の4%を越える人がうつ病に苦しんでいることになります。
地域別分布比ではアジア・太平洋地域が約48%を占め、その中で日本は中国の約5,482万人に次いでうつ病の人が多く、約506万人と報告されています。
現在は医療計画の5大疾患の一つとして対策が組まれていますが、まだ受診率は高いとは言えません。例えば平成26年に実際に全国の医療機関で受診したうつ病・躁うつ病の総患者数は112万人といわれています。
かつて、うつ病は脳の病気や内科的な病気・薬物・アルコール等が原因となる外因性、体質や遺伝的なものを原因とする内因性、精神的なストレスやショックが原因となる心因性といったように、病気の原因をもとに分類されていました。
現在では、米国精神医学会による手法で分類するのが主流になっています。その手法は病気の症状とそれに反応する薬物から分類するというもので、原因がはっきりと解明されてない部分が多い精神疾患において実用性が高いと考えられています。
その分類方法に従うと、うつ病は抑うつ状態だけが起こる「大うつ病」と、抑うつ状態と躁状態が現れる「双極性感情障害」の2つに大きく分けられます。
うつ病の症状
うつ病には従来から知られている定型うつ病(メランコリー型うつ病)と、最近になって認知されてきた非定型うつ病があります。
以下は定型うつ病でみられる症状です。
- 抑うつ気分
- 憂鬱、気が滅入るといった気分の落ち込みがみられます。通常時での気分の落ち込みは長くても数日ですが、うつ病の場合は1~2週間と継続します。
午前中に抑うつ気分が強く、夕方から夜にかけて楽になる日内変動や、ある日突然始まり、あるいは特に回復するわけでもなく、調子が良くなったり悪くなったりするといった特徴がみられるケースもよくみられます。 - 興味・喜びの喪失
- 趣味や友人関係といった以前まで楽しめたものに興味や関心を失います。
テレビや新聞、定期的に購読していた雑誌など、また身だしなみやオシャレなどに対して関心がなくなるといったケースがよくみられます。 - 精神運動制止(抑制)
- 行動の抑制、思考の抑制が現れます。
行動の抑制は、やらなければならないことに対してやる気が起きない、取り掛かりに時間がかかる、考える必要があることや初めての仕事が出来ない、といった内容です。
行動抑制が強くなると動きが緩慢になり、場合によってはほとんど横になったままの状態になり、言葉が出ない、あるいは小声で最低限の反応しか出ないといった状態になります。
思考の抑制は、考えが浮かばない・進まない、判断ができないといった状態です。 - マイナス思考
- 自責、罪業、微小妄想など。
心身の不調から自分は長くないと考える心気妄想、金銭的な問題から将来を悲観する貧困妄想、過去の失敗を必要以上に気にする罪業妄想などが代表的です。
妄想に至らずとも自責感が強くなったり、過度に自己評価が低くなり自信を喪失にしたりします。 - 希死念慮・自殺念慮
- 自信喪失や虚無感、苦痛からの回避など理由は様々ですが、死んでしまいたいと考えるようになります。その段階もまた様々であり、消えてしまいたい、死んだほうがましなどと考えたり、具体的な自殺方法を考え、実行に移すケースがあります。
- 身体症状
- 食欲不振、体重減少、便通異常、ガス症状、吐き気などの消化器症状。
胸部の重苦しさや息苦しさ、窒息感など、精神的症状と連動した呼吸器症状。
頭痛、胸部痛、腹部痛、背部痛、四肢・関節痛など身体各部の痛み。 - 睡眠障害
- 入眠障害、熟眠障害(中途覚醒)、早朝覚醒。
うつ病の場合、中途覚醒と早朝覚醒が特徴的です。
非定型うつ病の場合、定型うつ病とは違う症状を示す場合があります。
- 気分反応性
- 周囲の状況に反応し、気分が上下します。
定型うつ病が気分の落ち込みが継続するのに対し、非定型うつ病では度を越えて気分が浮き沈みします。
また、興味・喜びの喪失が定型うつ病の特徴であるのに対し、非定型うつ病では好ましい事や喜ばしいことがあると気分が晴れたりします。 - 疲労感
- 疲労感は、定型うつ病にも非定型うつ病にも現れる共通点ですが、定型うつ病の場合はだるさや倦怠感が強くなります。
非定型うつ病の場合は、初期から強い疲労感を覚え、気力がなくなったり、手足に鉛が詰まったように体が重く感じる「鉛様麻痺」という症状が現れます。 - 体重の増減
- 定型うつ病では食欲不振から体重が減少することが多いですが、非定型うつ病では食欲が増し、過食から体重が増加するケースがあります。
- 睡眠障害
- 定型うつ病では不眠症が多いのに対し、非定型うつ病では過眠(1日に10時間以上眠る日が週に3日以上)がみられます。
うつ病の原因
うつ病を発症するメカニズムについてははっきりと解明されていません。
研究により、近年では脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)が減少あるいは欠乏することでうつ病になるという考えが有力です。
うつ病の要因は脳卒中や甲状腺機能の低下といった身体の異常に起因するもの、薬物やアルコールが原因となるもの、家族や親しい人の死によるショックからくるもの、人間関係や経済問題といった社会的なストレスによるもの、遺伝や生育環境による影響など様々です。
うつ病の治療
うつ病の治療には主に薬物療法と精神療法を用います。
最近では経頭蓋磁気刺激法(TMS:Transcranial Magnetic Stimulation)なども用いられています。
薬物療法では、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などの抗うつ薬を中心的に用いて行ないます。
他にも抗精神病薬や感情調整薬、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を適宜使用したりもします。
抗うつ薬は効果を得るまでに時間がかかり、人によって効果が異なるため、少しずつ調整しながら使用していきます。
治療薬の効果がみられない場合や、お薬を使いたくないという場合は精神療法を行ないます。
精神療法では支持的アプローチに加え、認知行動療法や対人関係療法を用います。
認知行動療法は不適切な行動を増やし(行動療法)、物事の見方や考え方を正方向へ修正する(認知療法)精神療法です。
対人関係療法は、テーマを人間関係に絞り込み、対人関係における感情のもつれや葛藤、力関係の変化、正常な範囲外での離別や死別経験への反応などについて話し合い、カウンセリングを行ないます。
薬物療法と精神療法を組み合わせて行うことにより、より高い治療効果を見込めます。
うつ病治療には休養が大切であり、焦りは禁物です。
多くのうつ病の発症にはストレスが絡んでおり、環境調整によりケアする必要が出てきます。
そのためには職場や家族、友人など周囲の理解と協力が不可欠です。
また、うつ病の人は自信を喪失し、消極的になっている場合が大半であるため、重要な決心や選択は、回復した後に行うことが望ましいです。